流れ着いたメッセージボトル

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名前…名前は…何がいいかな……?

うんうんと悩んで数時間。
目の前の“もふもふ”を見つめて、あぁでもないこうでもないと名前を考える。

「……ピィーゥ。」
「あぁ…分かってるよ、そんな呆れた声出さないでも……」

相棒であるメガネフクロウの名前。
今まではこの子だとか、もふもふだとか、うちのフクロウ、だとか……
その場しのぎで名前を呼ばずにいたけど、そろそろちゃんとした名前をつけてあげた方がいいんじゃないかと思い立ったのが数時間前。

「…ねぇ、君はなんて名前がいい?」
「………ピィ。」

直接尋ねてみるもジト目で見つめ返される。

茶色いから、安直に“ブラン”とか?
フクロウは森の賢者とも呼ばれてるから、“ウィズ”とか?
ラテン語で夜って意味の“ノクス”とかもかっこよくていいかもしれない。

あれやこれや考え始めるとキリが無く、どの名前も悪くは無いがこの相棒にはどれもしっくりこないものばかりだった。


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結局、うんうんと唸っていても良い名前は思いつきそうになかったので気晴らしに黒い湖の畔へと散歩に出かけた。
もちろんフクロウも一緒である。
一度鳥籠へ入れようとしたが彼は肩に乗っかってる方が良いらしく、離れようとしなかった為そのまま外へと出てきた。
例え彼がどこかへ飛んでいったとしても、きちんと帰って来る事が分かっているから僕も割と彼の好きにさせている。

穏やかな湖の水面をのんびり眺めながら、小さい頃も悩んだ時はよく近くの川を眺めに行ったな…と思い出していた。
まだ魔法界を知らなかった頃、魔法という名の“不思議な力”を使う僕は周りから恐れられたり奇怪な対象として見られたり、除け者にされる事が日常茶飯事だった。
そんな時は川辺に行ってさらさらと流れていく水の流れを見ているだけで、自分のちっぽけな悩みなど、どうでも良く感じれたのだった。

…そういや、あの川の名前はなんだっけ、確か…



そこでふと思い浮かんだ………“テムズ”。

隣を振り返り、相棒であるフクロウを見つめる。
彼も僕をじっと見つめてくる。


「……君の名前は、“テムズ”。」


口に出すと、すっと馴染む様な気がした。
目を見てそう呼びかけると、彼はゆっくり瞬きをしてから大きく羽を広げ答えてくれた。

「これからもよろしくね、テムズ。」
「ピィーッ!」




#君の名前を呼んだ日 HPMA side.S

5/27/2025, 2:03:28 AM