夜の川原に、人々が集う。
今宵は記憶の灯火祭り。
夜空へとランタンを放つ祭りだ。
けれどもこれは、ただのランタンではない。
人々の記憶が宿ったもの――脳裏にこびりついて
離れない、もう二度と思い出したくない、
手放すことでしか、前に進めない記憶たちだ。
ひとつ、またひとつ。
黒い天蓋へ吸い込まれていく無数の光が、
川面にゆらゆらと映りこみ、この世のものとは
思えないほど幻想的な光景を生み出す。
でも忘れてはならない。
この美しい光のひとつひとつが、誰かの痛みであり、哀しみであり、後悔なのだということを。
闇があってこその光。
背負ってきた重荷を天へと解き放ってはじめて、
祝祭は喜びに変わる。
人々は祈るように手を合わせ、
光の行方を見つめていた。
――その時だ。
「ここにいたんだ」
突然、後ろから強く抱きしめられた。
声。匂い。温もり。間違えるはずがない。
たとえ頭から記憶を取り出したとしても、
身体が覚えているのだ。
心臓が激しく警鐘を打ち鳴らす。
そして、耳元に低い声が落ちてきた。
「忘れたとしても何度でも刻みつけてあげるからね」
お題「記憶のランタン」
11/18/2025, 9:45:23 PM