多田野一人

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あじさい
梅雨空に、艶やかな紫陽花が映える…雨粒が滴る花弁が、あの時の、あの人の俤と重なる…
淡い恋心を寄せていた、あの人と、しとしと降り続く雨の道を、二人で歩いていた…入学式で初めて其の姿を見かけてから、何となく気になっていた。でも、ずっと、話し掛けるきっかけがなくて、ただ、偶にすれ違うだけの、同級生だった…
其れから一年経ち、同じクラスになって、暫くしてあった学校行事で、初めて言葉を交わして…少しづつ仲良くなって、一緒に下校する様になって、あの道を何度か歩いた…途中にある、民家の庭から、少しはみ出た紫陽花をみるのが、暗黙の日課になっていた…其れから梅雨明けの頃、突然あの人が転校してしまい…
あれから、紫陽花を見かける度に、青い笠から覗いていた、俤を思い出している…

6/13/2024, 2:52:11 PM