谷間のクマ

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《ココロ》

「ココロ、ねぇ……」
「心がどうかしたのか?」
 とある日の下校中、私、熊山明里が呟くと、たまたま出会って一緒に歩いていたら蒼戒が反応した。
「心がどうかしたのか、ってなんか私が変な人みたいじゃない」
「いや別にそう言う意味では……」
「知ってる。ほら、放送委員会と演劇部のラジオドラマの話があったでしょ?」
「ああ、この前議案書が出てたな」
「あれのテーマが《ココロ》なのよ。この前羅針盤になりかけたんだけどさすがに無理があるってことで変わったんだけど……」
「何も思い浮かばない、と」
「そゆこと〜。でも演劇部の連中になんかアイディア出せやって言われてるのよねー。蒼戒なんか思いつかない?」
「……夏目漱石?」
「だよねー。というかそもそもこのテーマの出所が夏目漱石なのよ」
「今度はたまたま放送室に来た誰かが夏目漱石の『こころ』を持っていた、と」
「御名答。ちなみに羅針盤の時は岩下が方位磁針を持ってたからで、今回は国語の山田先生」
「なるほど。もういっそのこと夏目漱石の『こころ』の朗読劇に変更したらどうだ?」
「それも考えたんだけどあの話かなり長いからさ〜」
「確かに……」
「あとそれだと演劇部とコラボした意味なくね? って意見が出た」
「……大変だな、放送副委員長」
「まあ委員長がサイトウだから大体の責任はあいつに押し付けて私は裏の元締めだけどね。それに副会長の方が大変でしょ?」
 蒼戒はこれでも生徒会副会長である。しかも2年生で。
「まあ……今年のメンバーはどいつもこいつも濃すぎるからな」
 今年の生徒会メンバーは、会長がイベント大好き町長の孫、人呼んでMr.破天荒で、女副がチア部のギャル、議長と会計の混ぜるな危険の犬猿コンビなどなど、どいつもこいつも『濃い』。
「あれの裏の元締めの方がキツいでしょ。少なくとも私はムリ」
「だろうな。お前はどちらかと言うと締められる側だと思う」
「ひっどーい! 私だって放送の裏の元締めだよ?」
「まあ委員長があのバカだから」
「それは言えてる」
 とまあこんな感じで話がどんどん脱線していき。
 結局ラジオドラマのアイディアは出なかったため、またもっとわかりやすいお題にしようか、と議論が重ねられることになった。
(おわり)

※この話はかなり前の《羅針盤》の後日談(?)になっています。よかったら《羅針盤》も読んでくれると嬉しいです。

2025.2.11《ココロ》

2/11/2025, 4:53:28 PM