[優しくしないで]
「お前さ、そうやって優しくすんのやめろよ」
よく晴れた日の昼下がり、程よく体を温める春の陽気とは裏腹に、冷たくて重たい音がふたりぼっちの教室に響く。
目の前の友人は動かしていた手をパタリと止めて此方を見ていた。
「ご、ごめん。嫌だった?」
「嫌っつーか、ムカつく」
そう言うと明らかに凹んだ様子でもう一度、「ごめん」と声が聞こえた。
学級委員を務める彼はとにかく気配り上手で親切で、誰もが認める優しい人、だ。
クラスメイトの頼み事を断ったこともなければ、先生の手伝いも率先してやる。
そんな彼を日頃から見てきたからこそ、今の状況に苛立ちが募る。
「俺の前まで優しい顔引っつける必要ないだろ。」
「……え?」
「優しくしすぎなんだよ、お前」
咎めるように言えば、すっかり固まった友人。
そうして少し経った頃、ようやく口が開く。
「……なんでそんな気配りできるくせに、モテないんだろうなぁ」
「は?!うるせー!これからだよ!」
5/2/2024, 12:02:50 PM