暗闇で密かに開き、時には月明かりでぼうと浮かびあがり、そして空の白みはじめる前にはすでにしぼみ始めている、ヒトの目に触れることのない、そんな花のもとで死ぬことに、彼は、あるいは彼女は納得しただろうか。その花の茎を醜く握りしめた彼にそう問うのは野暮なのだろう。その骸が無粋な力学によって衆目に晒されなければ、彼は、彼女は次の夏にはその花になっているのだろう。いや、なっていてほしい。全てを見渡す御座にあって、それは思った。そしてそれがかなうことはないと、それは知っていた。なぜなら。
耳に男の声が蘇る。おまえは自分の意見をいえると思っているのか。希望が通ると思っているのか。ただ俺の命令を聞いて、それに従えばいいんだ――と。
7/23/2023, 2:41:21 PM