お題『手を繋いで』
「何、この手。」
「手だよ、手。」
「見たらわかるよ…。」
乾燥していない、細くて綺麗な手を差し出される。その手に、自分の手を乗せろというのか?
「なんで手を差し出したの、って聞いてる。」
ほぼ察しがついていながらも、改めて問いを言葉にした。自分の想像するその手の意味が正しいのか、答え合わせをしたかったからだ。
「手を繋ごう、って」
「なんで!」
意味分かんないよ!と言いつつ、まだその手に手を乗せる勇気がなかった。意味は合っていたようなのだが、いい大人に、いい大人が手を繋ごうだなんて、ちょっと…むず痒い。
しかも、恋人でもなんでもないのに。
「はぐれてしまいそうだから。」
「そんなにぽやぽやしてないよ。」
もう、とため息をついて歩き出す。それから、ふいっと顔を逸らして歩く。
「じゃあ、滑りそうだから。」
「じゃあってなんだよ…。大丈夫だって。」
相手をほぼ置き去りのような形で早足になりながら、舗装された道を歩く。ショーウィンドウや街灯、街路樹で灯るイルミネーションからこぼれて落ちた光がきらきら反射している。
少し拗ねた声色がした。
「わかんないかなあ。私が繋ぎたいの。」
「ええ?きみが?」
いつの間にか隣に来ていたその人へ目をやると、相手は目を細めてこちらを見つめていた。自分の知る限り、この人はそういう感じの人じゃない。意外すぎる誘い方に、少し驚きながら聞く。
「手慰みに。付き合ってくれる?」
そう言われたら、なんだか魅力的な手に見えてくる。しかし、なんだかこちらから手を伸ばすのは悔しくて、私も手を差し伸べた。
花弁が乗るのを、手で掬うように。手が乗りやすいであろう高さへ、掌を向ける。
「きみが手を差し伸べてよ。」
ふ、と笑みがこぼれるのも隠さずに相手の目を射抜く。相手は目を見開いて自分の手を見つめてから、直ぐにふは、と笑いをこぼした。
「そういう所が好きだよ。」
きゅ、と綺麗な手が乗る。自分も壊れ物を扱うように手を握り返した。少し冷たい。
「きみに転がされるのは癪。」
そうコメントを返せば、くく、と相手は喉の奥で笑った。
12/9/2024, 12:11:28 PM