さあ行こう
ベッドの上に横たわった姉がヒューヒューと息をしている。
向日葵のような笑顔で駆け出す幼い姉。引きこもりがちだった私の手を引いて、太陽の照らす場所へ連れて行ってくれた姉。まるで先生のように花の名前を教えてくれた姉。彼女の導いてくれた世界はキラキラと輝き、私の心を離さなかった。
不慣れな化粧をした姉が成人式から帰ってきた時「足が痛い」と言った。私も両親も靴ずれのせいだろうとその時は笑った。足の痛みの正体を病院で知った時から、私たち家族の日常は変わってしまった。両親や私に向ける姉のつくり笑顔はもう眩しさを感じなかった。
ベッドの上に横たわり、老人のようになった姉の唇を濡れたガーゼでそっと拭く。「れんちゃん、遊びに行こう?」姉の枯れた声にハッとした。姉はまだ私の手を引いてくれている。
姉を背負って太陽の下を歩く。裏山を抜け、堤防を進み、商店街を抜けて、公園へ「あの川、アユがいるんだよ」「お花の冠、教えたげるね」「秘密基地、まだ残ってるね」「おやつ買おう、内緒だよ」。
知ってるよ、全部。
夕日の差し込む公園のベンチから立ち上がって、チョコレートを二つしまう。
「さあ行こう、お姉ちゃん。もうお家に帰る時間だよ」
6/7/2025, 3:28:07 AM