計家七海

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ただの忠告/お題「一年後」


「一年後の私がどうなってるのか教えてくれ! いや、教えてください!」
 爺さんくらいの年齢の男が、おふくろに頭を下げてるのを見たことがある。
 まぁアレだ、例の与太話。おふくろが未来予知ができるとか、子供(オレだ)を産んでできなくなったとか、それは嘘でまだできるとか、それ系のやつ。
 令和の時代に何言ってんだと呆れるが、溺れる者は藁にも縋るって言うし、どんな藁でも弱ってる奴は縋りたくなるんだろう。感心するのは、そもそも一部でしか知られてない、しかも一番流行ったのが十年以上前(オレが生まれた頃くらい?)の、古びた噂話なんて拾ってきたことだ。
 感心してたのはオレだけで、おふくろはと言えばそんなんじゃ詐欺に遭うと説教し、誰から噂を聞いたのか聞き出し、ついでに弱ってるなら病院に行けとしめくくって追い出した。
「ごはんだよ」
 と、何事もなかったかのように言うから、一応訊いてみた。
「あの爺さん、あれでいいの?」
「知り合いの親戚だからって、あれ以上面倒見てられないね」
 それはそうもしれないが。
「あの爺さん、一年後には」
 死んでそう、とオレが言う前におふくろが言った。
「だから病院に行けって言ったんだよ」
「あー……」
 なるほど。知り合いの親戚くらいなら、そのくらいの忠告がギリギリだ。
 ごはんだよ、とおふくろがもう一度言って、その話題はそれきりになった。

5/9/2023, 9:24:27 AM