「イルミネーション」
光は魔法だ。
一人で生きていくには暗く辛い世界を希望や愛に満ち溢れたものにする。
時には、ただの記憶を輝かしい思い出にも変える。
道路を挟むように立つイルミネーションの並木。
カップルがそれを背景に写真を撮る。
見えるもの全てがキラキラして眩しすぎる。
強い光は時として人間の陰を強調させる。
心の中で唾を吐いて足早に通り過ぎた。
「宝石みたいだねー!」
いつか彼女が言った言葉が聞こえてきて振り返ってしまった。
頬を紅潮させて彼氏の腕に巻き付く女。
見るからに甘いオーラを醸し出している。
全然似てないのに彼女の面影を重ねてしまう。
「宝石みたいだねー!」
都内一番と謳われるイルミネーションで彼女は言った。
「宝石の方が綺麗だよ」
木に巻きつけただけの電飾が、宝石と同じなんてちょっと受け入れ難くて、意地悪を言った。
「そんなことないよ!」
彼女が僕の腕に巻き付く。
「今ね、コンタクトしてないから全部ぼやけてるの。
けど、ぼやけてる方がすごく綺麗。本当にキラキラしてる」
そう言ってニット帽を深く被り直した。
「寒くない?」
「うん」
元気にそう言う彼女は全然余命1年とは思えなかった。
「全然大丈夫。病院戻りたくないなあ」
僕は何も言えなくて彼女の手を握りしめた。
吐く息が白く染まり、自分に体温があることを思い出させる。
光は魔法だが副作用もある。輝かしく変えられた思い出は僕を苦しめた。
涙が込み上げる。
ぼやけたイルミネーションは宝石のように美しかった。
12/15/2024, 1:44:00 PM