真澄ねむ

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 じめじめとした洞窟の中に、アグニムは縛られて地面に転がされていた。時刻はやや太陽が沈み始める頃合いのときだ、洞窟の入口がさっと翳る。誰かが洞窟の入口から中を覗いているようだ。
 自分のいる場所から、洞窟の入口まではやや高さがある。自然と彼は洞窟の入口にいる誰かを見上げる格好となった。入口から誰かがこちらを覗いているのが見えるが、逆光でその顔はよくわからない。
 それは目を眇めて洞窟の中を凝視していたが、ようやく目当てのものが見つかったらしい。ほっとしたように破顔すると、ゆっくりと洞窟の中に足を踏み入れる。そして、一目散に縛られている彼に元へと向かう。
「アグニム様!」
 今、このようなところで聞くことのない声のはずだった。芋虫のような状態になっているアグニムは、緩慢な動作で寝返りを打つと体を起こす。
「……フーリエ……」
 ほっとしたような泣き笑いのような表情を浮かべる彼女が目に入った。彼女は持っていたナイフでアグニムのあちこちを縛るロープを順次切っていく。全てのロープが切られて、縛られていたあちこちにようやく血が通い始めた気がする。
「お怪我はございませんか?」
 フーリエが眉を八の字にして小首を傾げた。
 大丈夫だと返しながらも、彼は感慨深い気持ちで胸がいっぱいだ。
「お前に助けられることがあるとは夢にも思っていなかった」
 彼の誰に言うとでもなく洩れた呟きに、フーリエは小さな微笑みを浮かべた。
「何だかいつもと逆ですね」
 ふ、と彼も笑った。
「ああ、そうだな」
「今回は、きちんとお役に立てている自負があるので、とても嬉しいです」
 フーリエは彼に向かって、手を差し出した。その手を取って、彼は立ち上がる。まだ足元がくらりとよろけるので、彼女の肩を借りることとなった。
 きまり悪そうな表情を浮かべる彼に、彼女は言った。
「どうか必要とあれば遠慮せずに頼ってください。アグニム様はご自身でできることが多く、わたしがお役に立てることはほんの僅かですが、それでも何か頼っていただけるとわたしは嬉しいです」
「……そうか。そう言ってくれるのであれば、なるべく頼るようにしよう」
 彼の言葉にフーリエが満面の笑みを浮かべた。
「今回は確かに助かった。礼を言う」
 だが、と彼は言葉を続ける。彼女の肩を抱く手の力が強くなった。
「お前自身が危ない目に遭うかもしれないことを、今後は絶対にしないでくれ。心臓に悪いから」
 彼はほろ苦い表情をしていた。

12/7/2023, 8:38:16 AM