青花一華

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#沈む夕日

あの日、わたしはこの場所で地球最後の夕焼けを見た。

あの瞬間、わたしの世界は一斉に息を止めたのだ。
ただただ色濃く広がっていく茜色が、悠々と燃え広がっていくようなキャンバス。それを映す鏡は、まるでわたしをそちらの世界に連れて行ってくれるように思えた。
海と空の境界線がはっきりと浮かび上がる。
光の核が、ゆっくりゆっくりと落ちていく。あれは、きっと海に帰っていくのだろう。太陽にだって帰る場所があってもいいはずだ。太陽だって、わたし達人間と同じように生きている。当たり前に朝には顔を出し、夜には姿を隠す。そのサイクルを絶やすことなく、太陽はわたしたちの住む星を照らすという仕事を淡々とこなしている。休みなどなく、ただひたすらに。出勤と帰宅を繰り返す。
なんだ。あれだって、人間と同じようなものではないか、と思った。
だから今わたしは、この地球で1番美しい、太陽の退勤の様を眺めていられるのだろう。


赤く色づいた空は、段々と青に覆われてきた。

力強い希望の光が、濃紺に吸い込まれていく。


ついに、ついに終わるのだ。この世界がようやく。
長かった。長い長い人生だった。同時に長い戦いでもあった。出会うべくして出会った人は、とうに先立たれてしまったし。今をここまで生きてきて、希望を見出すことなど二度となかった。
死ねないから、生きている。ただ、ただ純粋に、
それだけで生きていた。


傲慢だ、と人は言うのかもしれない。
与えられた生命、身体を大切に、天寿まで全うすべきだと。なすべき今世の己の使命を探し出せと。
生きたくても生きられない、そんな命が数えられないほど存在しているのだ、この星には。
見えない地球の裏側で、いま、何が起きている?
わたし以外の、わたしが見たことすらない人間たちの目には、この世界がどんな風に写っているのだろうか。
そんなの知る術もない。それこそ、傲慢だ。全ての人間の世界の見方を知ろうだなんて。わたしには、なんだって、どうしたって、わたし以外の人間にはなにもしてやることが出来ない。それは逆も然り。

わたしの人生はわたしが決める。
たとえ、それが間違いだと、だれに言われたとしても。構わないのだ、わたしにとって。わたしには、この世界があまりに残酷で、痛くて、苦くて、時々温かい。わたしは、そんな世界に酷く疲れてしまったようなのだ。そう、それだけだ。
だから、もう悔いなど未練など、来世に持ちこす以外に解決策はないのだろう。と。そうわたしは判断した。


嗚呼。

海と空が再びつながる

ただただ最後の沈む夕日に、最後まで目を奪われていた。

4/7/2023, 10:01:48 PM