与太ガラス

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カナデの実家での生活は、大掃除を手伝うというミッションでハリが生まれた。ルームシェアしている自分たちの部屋は棚に上げて、カナデのお母さん(ヨウコさん)の役に立ちたいと思いながらやると掃除をする手も捗る。

「家のことはいいから、レイクタウンにでも行ってきなさいよ」

 とヨウコさんは言ったけど、お互いそんな気分でもなかった。

 ベランダの窓を拭きながら、捲った腕と顔に冬の風が吹きつけた。冷たくなった雑巾も手に染み込んでくる。大掃除の風習がなんで真冬なのかと、日本の歳時記を恨めしく思う。でも真夏にやったところで暑すぎてやる気が起きないのは同じだ。

 キッチン周り、テレビの裏、蛍光灯など、普段手の届かないところをカナデと私であらかた片付けると、チャイムが鳴った。ヨウコさんが玄関から戻ってくると、2人に号令をかける。

「はいはーい。ほら、テーブルの上だけ片付けて! お昼にしましょう」

 手には宅配ピザが載せられていた。

「なんか懐かしいなぁ。大掃除するとき、いつもピザ頼んでた」

「バタバタしてキッチンも使えないからね。片付いてから料理するとお昼遅くなっちゃうし」

 お手伝いのご褒美を堪能しながら、カナデとヨウコさんの大掃除あるあるを聞いていた。家族の生活感がうかがえて楽しい。

「二人は自炊してるの?」

 ヨウコさんが私たちに聞く。

「いちおう当番制でやっています。でも仕事の都合もあって、できる方がやるっていう感じです」

 私が答えた。

「ナオさんがしっかりしてて安心だわ。カナデが迷惑かけてない?」

「もーやめてよー。ちゃんとやってるってば」

「いえいえ、ルームシェアを始めて、本当に良かったと思ってるんです。料理だって、自分では作らないような凝ったものを作ってくれて。この前はカルパッチョだっけ? オシャレな料理作るんですよ」

「へー、意外ね〜」

 そう言って笑うヨウコさんもかわいらしい。

「お母さんに教えてもらった料理以外にも、いろいろ研究してたくさん作れるようになったんだよ。私、料理好きかも」

「やる気になるまでが長いけどね」

「ひどーい。たしかにナオが夕飯作る方が多いけど!」

「この子すぐ調子に乗るんだから」

 この一年を振り返っても、四月にルームシェアを始める前と後では、生活がガラリと変わった。それまでは仕事をして寝るだけの生活だったが、今は毎日、朝起きるのも部屋に帰るのも楽しみだ。家に自分以外の人がいる感覚を久しぶりに味わっているからかもしれない。でもカナデとの生活は、もっと奥の方で心が和らいでいる気がする。そのカナデの雰囲気はヨウコさんから譲り受けたものなのかな、とここに来て思った。

 カナデとヨウコさんが二人で笑っている姿を見ると、心が温かくなる。ふと首を外へ向けると、部屋の角にある鏡と目が合った。鏡の中の自分は、見たことのない顔で笑っていた。その顔の後ろには笑い合う親子が映る。この鏡に切り取られた一枚の絵では、三人が同じ一つの家族のようだった。

「そうだ、今日の記念に三人で写真撮りましょう」

 私は思い立って二人に告げた。

12/31/2024, 1:39:31 AM