菜な子

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気がつくと、私には
ところどころ黒いものの
まばゆいほどに白く、
美しい羽が生えていた。

これならどこへだって飛んでゆける。
ここから出ることができるかもしれない。
私の知らない、
素敵な世界を見ることができるかもしれない。
そう思うと、心が先に羽ばたいてしまいそうだった。

羽ばたいて
羽ばたいて
羽と羽がくっつく程に羽ばたいて。
ひらり
ひらりと空へ舞って
なのに全然進まなくて。
1度あら、と疑問を持ってしまったら
羽ばたく身体がはたと止まった。


前方の見覚えのある景色を見たら、
どれだけしか進めなかったのかが
気になって気になって仕方なくなった。
少し躊躇ってくるりと振り向くと、
そこには、すぐ側に、さっき飛び立った所があった。

きっと、初めてだったから。
私はもう一度背中に力を込めて羽ばたく。
ひらり
ひらりと空へ舞う。
地面に這う。

舞う。
這う。

繰り返す。

まだ見ぬ世界を求めて瞬きを忘れ、双眼は敗れそうな程に開き、口から胃液がこぼれ落ち、地を這い、空へ舞い、また地を這う。


もう1度。
くらり
くらりと舞って
ひらり
ひらりと桜の花びらのように舞って、
誰にも知られぬ涙のように
ぽとりと1人、大地へ堕ちた。











「モンシロチョウ」

5/10/2023, 1:30:57 PM