towa_noburu

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お爺ちゃんの遺品から出てきたとある懐中時計は楕円形でまるで秒針が溶けたような形をしていた。
生前その時計を使ったところを見たことがなかった。
書斎の机の引き出しの奥から出てきたこの懐中時計。祖父のコレクションの一つに相応しく重厚な装飾が施されている。
僕はその懐中時計をじっと見つめた。カチカチと動くその時計は、よくよく見ると反時計回りに針を刻んでいた。まるで、過去へと常に遡るかのように。
「壊れてるのかな?」単純にそう思った。
僕はその時計をそっとズボンのポケットにしまおうとした。そのうち、修理に出してみようと思ったのだ。
奇天烈な見た目の時計は思いの外僕の心を捕らえて離さなかった。
しかし、あやまって床に時計を落としてしまった。
慌てて拾い上げると、その時計は先ほどとは明らかに違う猛スピードで秒針が進んでいく。
ぐるぐる、ぐるぐる。その驚くべき速さに目を回しそうだった。
それと同時に不思議な事が起こった。
周りの景色が時計に合わせてぐるぐると目まぐるしく変わっていった。
祖父の書斎が子供部屋になり、畑になり、また家が立ち、荒野になり…やがて、のどかな山々と野原になった。僕は唖然としながら立ち尽くした。
野原の向こうに狼煙がのぼっている。
突然背後から声をかけられた。
「なんだ、達也じゃないか。」
その聞き慣れた声に驚いて、僕はすぐさま振り返る。
「え、えっ?おっおじいちゃん??幽霊?」
「何を馬鹿なことを言っとるんじゃ。わしは生きとる」おじいちゃんは僕の腕に触った。
おじいちゃんの手はしわしわだったけれど、確かに温かった。
「え、じゃあ本物?ねぇここどこ?」
「今はいつ頃かのう…、わしの見解が正しければ、白亜紀あたりじゃ。」
「はぁっ…??」
「恐竜がうようよいるぞ。はは、毎日生存戦略を迫られる。わしもまだまだいけるな。」
「ちょっと何言ってるかわからないよ。」
僕は頭を抱えた。
「百聞は一見にしかず。とにかく、この辺りを見てまわるといい。世界が、変わるぞ。」
「………っ。」
僕はおじいちゃんに促されて、顔を上げた。
まず、感じたのは空気が澄んでいて美味しい、その事実に驚いた事だ。見たことのない植物達。
そして次に、上空を翼竜が舞っているのを視界にとらえた時、僕は覚悟した。
「…恐竜って食えるの?」
「ははっその粋じゃ、達也。さすがわしの孫。」

僕はおじいちゃんに背を叩かれながら、歩み始めた。
不思議な懐中時計は辺りをくまなく見回したが、どこにも見当たらなかった。

「まだ見ぬ世界へ!」

6/28/2025, 12:18:42 AM