とある村の平凡な商人。その村は小さいが、真ん中にはこの村のシンボルである大きな樹木があり、意外にも旅人が行き来している。そしてついでに私の店によってきてくれる旅人がいるため多少は稼げている。特別やりたいこともなかったので親がやっていた仕事をそのまま引き継いだわけだが案外悪くない。親が商人をやってくれていたのは感謝しかない。その親だが隣町に仕入れをしようと行ったきり帰ってこなかった。隣町までの道のりには魔物がよく出るのでそいつらが殺ったのだろう。普通はギルドに依頼して護衛してもらうのが定石だ。だが私の親はどちらもケチだ。自分たちの命より依頼料で取られる金のほうが大切なようだ。その性分が原因となってあのような結果を招いたのだ。もちろん私の肉親を見るも無惨な姿にした魔物たちが憎い、だが自業自得とも言える。そんな親のもとで生まれた私だが想像していたよりも依頼料は高い。ケチりたくなる気持ちがよく分かる。さすがは親子だ。私はたった今隣町に仕入れに行っているところ。隣には誰もいない。そうだ。ギルドに依頼しなかったのだ。でも親とは違う。決定的に違うところがある。私は運が良い。類まれな運の良さだ。まるで常に神様が全力で私をハグしてくれているように運が良い。なんて鼓舞している自分が虚しくなってくる。はぁ~思わずため息が出る。すると突然、草むらからわずかにザッザッと音がした。体に電気が走ったかのようにびくっとする。風は吹いていない。なので草がざわめくのは明らかに生き物の仕業だ。俺も親と同じ運命をたどるのか?そんな不安が頭をよぎる。同じ未来にはならない。そんなことを思考している間に体が勝手に動いていた。それは俺の意思ではない。無意識とかじゃない。背中に激痛が走る。どんどん意識が遠のいていく。最後に朦朧とする意識の中盗賊が私の袋の中を漁っているのが見えた。目が覚めるとそこは見慣れない光景をしていた。あまりにもハイカラな世界。周りの人間は小さな箱をこちらに向けていた。
2/28/2024, 11:50:25 AM