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『ミッドナイト』

深夜零時、街の騒めきが嘘のように息を潜めた頃、私はいつものようにとあるBARの扉を開ける。

カチコチと時を刻む古時計。
黙々とグラスを磨くバーテンダー。
客は、私ひとり。

​「いつものやつを」

​差し出されたのは、夜空を溶かしたような深い紫色のカクテル。
一口飲むと、意識が少しずつ現実から剥離していく。

ここでは、昨日と今日の境界線が曖昧になる。
やり残した後悔も、明日への不安も、この琥珀色の灯りの中ではすべてが等しく「過去」として許される気がした。

「またのお越しを、お待ちしております」

​店を出ると、冷たい風が頬を撫でた。
振り返ると、そこにはもう看板も扉もなかった。
ただわずかなアルコールの熱だけが、口の中に残っていた。

1/27/2026, 8:20:24 AM