窓越しに見えるのは
日帰りの温泉旅行の帰り道。父がトイレ、と言うのでサービスエリアに入った。
暑い日だった。僕は外を歩くのが億劫だったので冷房の効いた車で待つことにした。
休日だけあって、多くの人が歩いている。ジュースを飲んだりソフトクリームを食べたり、お土産の袋を両手いっぱいにぶら下げたり。
車窓からトイレの方に目をやると、やはり人の出入りは激しかった。お父さん、漏れずに出来たかな、などと考えていると、ふと屋根の方に目が止まった。黒い影が屋根裏に流れ込んだのだ。
車を出て、トイレまで歩いていった。すると今度は、さっきの影が外に飛び出していった。僕は近づいて見上げてみた。
燕だ。燕の巣がある。数は確認できないが、雛も何羽かいるようだった。
なんだ、と用を足した父が声をかけてきた。
ほらあれ、燕の巣。
へぇ。こんなに人が多いところで珍しいな。警戒心がないのか。
さあ。意外と人がいるところのほうが天敵がいなくて安全なのかも。
なるほど。
という一幕があった休日。なんてことない会話だが、普段は父とはほとんど会話は無い。燕の話も、これでもよく話した方だ。
窓越しに見えた影。実は車内からでも燕だと思っていた。
トイレの前で屋根を見上げていたら、何か会話が生まれるかもしれない。無意識にそう考えたのかもしれない。
そんな、ある父の日のこと。
7/1/2024, 10:29:40 PM