石畳に靴音が響き渡る。
軍服と寒冷地対応のマントを身に着けた小隊長に昇格したミリルだった。
年の頃は25.長身で、薄い髪色は肩より下まである。細身で甲冑よりも貴族方の上質なタイのほうがずっと似合いそうだ。
「ジョルの妹は!」
尋ねられて、医務室から出たばかりの治療員は口ごもった。
「レイシー」
再度尋ねられて、ぺこりと治療員のレイシーは頭を下げた。
こちらもまだ若い。戦時に駆り出されるぐらいだ、高位の者はそもそも温かい屋敷。中間層も街での院の維持。いつも戦場に呼ばれるのは若い命だ。
女性は、黒髪とフードの中にからやっと尋ねられた事を答える。
「彼女はまだ目を覚ましません、明け方からは熱が出て…。懸命に治療しましたが…その、裂傷や感染症がひどくて」
対する青年はよく分からない顔をしている。最後女性が口ごもった理由が分からなかったのだ。
何度かほかにも見舞いに来るものがいたが、みんな追い返しているが上司となるとまた難しい…。 ジョルの妹の、命だけは助かった。命だけは。
救いなのか、そこに妹の兄が次いでやってきた。
「公子!会議の時間が」
「分かっている。だがお前の妹が」
彼ら2人の執着は深夜に運ばれた今高熱で寝込んでいる少女。ジョルの妹のこと。
「お兄様なら…少しなら」
医務室の女性レイシーは、やっと絞り出すようにして処置室のドアを開いた。
男達は目を見合わせて、「行けよ」「分かりました…」という会話をしている。
レイシーは入室する兄の方をじっと見る。
「深夜に申し訳なかった、助かった。妹を診てくれてありがとう」
「いえ…」
似てない兄妹だなと思ったのだ。がっしりした肩と、背中まで張り詰めた筋肉。弓兵らしい腕のしなやかさが目立つ。衣服は昨夜のままだ。
「優しくお声がけしてあげてください…」
「あ、あ」
「ひどい状態でした。傷はできるだけ塞ぎましたが…」
ジョルもレイシーも、治療室の前から入れず、けれどなかなか下がれないでいる公子にはもはや構えない。
「だ、大丈夫、か…スズカ」
ひとこと、ふたこと。彼は横たわる小さな妹に声をかける。投げ出されたままの彼女の手を触る。裂傷だらけだった腕はもう治っている。
指だけがぴくりと動くがそれだけ。体温は高い。
12/31/2025, 11:01:58 PM