谷折ジュゴン

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創作 「君の目を見つめると」

図書室の隅で友人が読んでいる本が、わたしの目に入った。あの本はたしか、サンドイッチの味がしたはずだ。レタスとハムが挟んであるサンドイッチの味。

「ねぇ、その本おいし、じゃなくて良いよね」

「ん?うん。手軽に読めて、面白いし楽しいもんね」

面白いし楽しいか。そうか、そう表現するものか。

「そういえばさぁ、文章がおいしいってたまに言うけど、それどういう意味なの?」

友人の目に困惑の色が浮かんでいる。ああ、どう説明したら良いだろう。

「比喩……かなぁ」

「ふーん」

よかった。興味がそれた。友人が本へ目を戻し、わたしは胸を撫でおろす。だが、友人は本を置いて頬杖をついた。

「なんかやばいね」

「えっ」

わたしは友人の目を見つめた。だけど、真意は読み取れない。せめて、プラスの意味だと受けとりたい。わたしは友人に尋ねる。

「それは褒めてるの?けなしてるの?」

「んーけなしてはない。ただ、変なのって思ったの」

「変なの?」

「味での比喩って分かりにくいじゃん。文章は味なんかしないのに」

友人はじっと虚空を見た後、あっと言う顔をする。

「ああ、ほら、あれ、あれでしょ?味がある文章とか、味のある絵とかそういうの?」

「……うん、うん 、たぶんそういうのだよ」

「はぁ、やっと意味がわかったよ確かに比喩だね」

もう、そういうことにしておこう。ようやく日常の謎の答えを知ってスッキリしている友人へ、これ以上の説明をしてもまたモヤモヤさせることになるだろうし。
(終)

4/6/2024, 11:59:20 AM