せつか

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気にしなければいいのだ。
実際、朝や昼は気にならないのだから。
チッ、チッ、チッ、チッ·····。
どこにでもある時計の音だ。
秒針がゆっくり回り、12を指して通り過ぎる。一分経過したことを告げた針はそれを六十回繰り返して一時間を、更にそれを二十四回繰り返して一日が終わることを告げる。
チッ、チッ、チッ、チッ·····。
電池が切れるまでそれは続く。電池を交換すれば更に長く、繰り返し時を刻み続けるのだろう。
チッ、チッ、チッ、チッ·····。

深夜。
家族が寝静まり、テレビも消えてリビングには私一人。時計の針がか細く鳴くのを聞きながら、私は読みかけの本のページを開く。
チッ、チッ、チッ、チッ……。
「·····」
数ページ進んだところでパタリと本を閉じる。
チッ、チッ、チッ、チッ·····。
夜、一人でいるとそれは私をからかうようにやけに鮮明な音となって耳に届く。
ただの時計だ。時計はただ時を刻むだけ。なのにあの音は、私に何かを急かすように神経質な音を響かせる。

タイムリミットなど無い。(本当に?)
この家であと何度二十四回を繰り返すのか。(永遠に?)
壁にかかったあの時計のように、このままこの家で朽ちていくのか。(それが人の生でしょう?)
チッ、チッ、チッ、チッ·····。
時計の針が更に私を追い詰める。
――決行の日を、決めなければ。

深夜。
一人で本を読む私は、時計の音を聞く度にこうした昏い妄想に取り憑かれている。
チッ、チッ、チッ、チッ·····。
妄想で済んでいるならまだ大丈夫だろう。
「決行の日を決めなければ」
チッ、チッ、チッ、チッ·····。
少しずつ音は大きくなっている。
昏い妄想はやけにリアルな夢になり、言葉と行動で私を突き動かす。

あぁ、時計の針が、聞こえてこなければ··········。


END


「時計の針」

2/6/2024, 12:29:48 PM