帰燕[Kien]

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作品No.67【2024/06/06 テーマ:最悪】


 小学六年生の頃、担任だったS先生へ。
 私には、「給食を残さない!」だの、「せめて果物は食べなさい!」だの、「食べ終わるまで片付けたらだめだからね!」だの、色々言ってましたね。おかげで、私はいつも三階の教室から一階の配膳室まで、一人で給食を片付けに行かなければなりませんでした。ときには泣きながら片付けに行くこともありました。当然、クラスメイト達は掃除をしているのに、それにも参加できず、なんとも言えないいやな気分にさせられたものです。
 まぁ、あなたの言い分——「この世界には、満足に毎日の食事ができない人達がいる。せっかく給食があるのだから、残すなんてとんでもない。せめて二皿は完食しなさい」というのも、わからなくはないです。でも、無理してまで——いや、この場合は、ときに泣くほどの無理をさせてまで——食べさせる必要があるでしょうか?
 確かに私には、食物アレルギーは当時も今もありません。私が給食を残すのは、ただの好き嫌いと食わず嫌い、そして、そこまで量を食べられないからです。そんな私の行為は、あなたの目にはきっと、〝ワガママ〟だと映ったでしょう。
 でも、そう、多分——あなたのそんな指導がなければ、私はもしかしたら、今よりも食べることに関心をもてたんじゃないかと、そう思えてならないのです。今の私は、下手したら一日何も食事らしい食事を取らないということも、してしまうでしょう。それほどに私は、〝食べること〟に関心が薄い。
 卒業してしばらく経ってから、あなたから届いた年賀状には、あの頃と違うあなたの名字が書いてありましたね。おそらく、ご結婚されたのでしょう。どこかのテーマパークで撮ったらしい、キャラクターとのツーショットに、負の感情がわいたのを今も憶えています。とにかくも、結婚したのなら、もしかしたら、子どもも生まれたのかもしれませんね。
 さて、もし子どもがいるとして、その子が食事を残したとして、あなたは一体自分の子どもにどう指導したのでしょうか? まさか、「食べられないなら残していいよ」なんて、優しく言ったりしてませんよね?
 あれから、二十年近く時が流れても、あなたへの恨み言は私の中から消えません。給食のことばかりではありません。図書室割当ての時間に図書室に連れて行ってもらえなかったことも、読書好きの私からすれば、あなたを嫌うに充分な理由でした。
 私がもう少し、反抗的な態度を言葉に出せたなら。
 あなたは私にとって最悪の教師だった——そう、伝えたかったのに。

6/6/2024, 2:45:30 PM