美佐野

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(二次創作)(カラフル)

 赤、橙、黄色、緑、青、紫、藍色。色とりどりのそれらからは、いずれも空腹を刺激するスパイシーな香りが立ち上る。艶々のご飯は炊き立てで、見ているだけで涎が出そうだ。その様子を一望して、シュタイナーは傍らの牧場主アヤを改めて見た。
「それにしても、随分カラフルな食卓だね」
「だって今日は、シュタイナーの誕生日だもの!」
 わすれ谷を騒がせる怪盗シュタイナーが、別の意味でわすれ谷を騒がせる牧場主と結婚したのは、今から少し前のことだ。妻帯者となったことを機に、シュタイナーは怪盗業から足を洗った、らしい。時折谷を離れてどこかに出掛けることはあるが、殆どは谷で、牧場の敷地すら出ずに過ごしている。
「私はシュタイナーが怪盗業やってても気にしないけどね」
「君は変わってるよ」
「そう?」
 何はともあれ、せっかく用意したカレーが冷めてしまう。二人の仲が深まったきっかけも、またカレーだった。アヤはカレーを作るのが好きで、シュタイナーはカレーを食べるのが好き。そしてアヤは手広い牧場主で、様々な食材を生産してはカレーに使うのを繰り返していた。
 食卓に着いたシュタイナーは、まず藍カレーに手を伸ばした。一口、二口咀嚼してから、おいしいよと言ってくれる。アヤはそれが、嬉しい。
 と、シュタイナーがしみじみと呟く
「そっか、僕の誕生日か」
「うん」
「誕生日って、ケーキでお祝いするものだと思ってたな」
 心配は要らないのだ。アヤは立ち上がると、シュタイナーの手を引いて冷蔵庫の前まで連れてくる。扉を開いたそこには、三段のデコレーションケーキが鎮座ましましていた。ご丁寧に、カレーにも使った色草たちをふんだんに散りばめ、蜂蜜やシロップをとろりと垂らした、世界で一番カラフルな誕生日ケーキ。
「やっぱり僕は怪盗を辞めて良かったのかも」
 シュタイナーは妻をぎゅっと抱きしめた。
「キミ以上に欲しいものなんて、もうこの世のどこにもないんだから」

 

5/2/2024, 12:01:21 PM