海月 時

Open App

「残念ながら、ドナーが見つかりませんでした。」
その言葉は、私の余生を決めるものだった。

「じゃあ、君はドナーが居ないと死んじゃうんだ。」
彼はそっかそっか、と呟いた。せっかく初恋の彼と付き合えたのに、癌が見つかるなんて。
「最悪だよね。」
思わず、そう口にしていた。そんな私を、彼は微笑みながら見つめていた。
「君は悪くないよ。」
「でも、私には臓器が必要で、それは誰かの不幸を願う事なんだよ。そんなの、残酷だよ。」
「…僕なら、君に臓器を使って貰えるなら幸せだよ。」
「そんな、悲しい事言わないでよ。」
彼は不敵な笑みを溢した。
「そうだ。僕、旅行に行く予定が入ってね。少しの間、病室に顔を出せないと思う。」
「そっか。楽しんで来てね。」
「うん。お土産待っててね。」

数日後、急遽手術の予定が入った。どうやら、ドナーが見つかったらしい。私はすぐに彼に連絡をしたが、彼から返信は来なかった。数日後の手術は、成功した。

「貴方宛の手紙です。」
看護師から渡された一通の手紙。私は嫌な予感がしたまま、手紙を読み始めた。

【拝啓、愛しの君へ。これを読んでいるという事は、手術は成功したようだね。君に癌が見つかった時、僕は心に決めました。僕の臓器は君だけに捧げると。しかし、只捧げるだけでは、君がこの事を知った時病んでしまう。なので、君には僕の記憶と共に生きて欲しい。そして、僕の分まで笑って欲しい。それが、僕の臓器との交換条件です。
これからも、君を愛しているよ。】

涙が止まらなかった。私はもっと彼を知るべきだった。彼は私に隠れて、臓器の適応検査をしていたなんて、自分事しか頭になかった私には思いもよらなかった。
「こんなお土産、待ってないよ。」

暫くして、私は退院した。横に彼は居ない。でも、もう泣くのは止めた。今日からは、彼の記憶と生きよう。
「まずは、私達の出会いの場所に行こうか。」

3/25/2025, 2:08:38 PM