【あの奇跡をもう一度】
「──、おはよ。」
声が聞こえた気がして振り返っても、俺に視線を向けてる人はいなかった。
ため息をついて端っこの席に座る。
大学2年の春。初の春休みを謳歌した同級生達が浮き足立つ中、俺は相も変わらず一人でため息ばかりついている。
──別に、俺かて初めからひとりやった訳やないし。
誰かに聞かせるわけでもない言い訳を何度繰り返しただろうか。
少し視線を左にズラしても、目に入るのは机だけ。
スラスラとシャーペンを操って落書きをする右手も、自分で作ったという独特なスマホケースも存在しない。
オリエンテーションでたまたま隣だった“あいつ”は、たまたま俺と同じアニメにハマっていて、たまたま昼を一緒に食う奴がいなくて、たまたま波長があって、気づいたら仲良くなっていた。
そこから半年、授業も飯も遊びも全部あいつと一緒だった。
俺が左利きなのを知っていてわざと左側に座るから、互いの腕がぶつかって字が歪んだり、
あまり量を食べないあいつの飯を貰ったり、
あいつとの記憶はそんな些細な事で溢れている。
俺の大学生活は、間違いなくあいつに彩られていた。
でも、夏休みを境にあいつは学校に来なくなった。
電話も出ない、メッセージも返ってこない、SNSに至ってはアカウントが消えていた。
次の日、午後の授業を切ってあいつの最寄り駅に行ったがいくら探しても見当たらなかった。
思えば、これが初めてのズル休みだったかもしれない。
時間を見つけてはあいつを探しに行ったが、いつまで経っても見つからなかった。
それからずっと、俺の隣には誰も座らない。座らせる気もない。
どうせ教室のキャパに対して半分位の人数しかいないんだ。このくらい許されるだろう。
でもどんなに面倒でも授業は出てるし、ちゃんと飯も食べている。なんなら死ぬほど苦手だった料理も一通りのものは作れるまでに上達した。
朝方までゲームをするのも程々にしている。
──なぁ、俺ちゃんと約束守っとるよ。
だから、どうか
(お題3:奇跡をもう一度)
10/2/2023, 11:45:39 AM