私は、日本でも最古の部類の由緒正しい家に、長男として生まれた。
大学卒業後、我が家、我が一族宗家の嫡男となり、
今日、先代から正式に当主の座を譲り受けた。
これは、当主の座を譲り受ける前日に、先代に贈られた言葉だ。
「今は運が良ければ、健康な状態で百歳くらい生きられる。
この事実は、紛れもない人類の快挙だ。
しかし、それは我が家の、我が一族の歴史を前にしては、
二十分の一にも満たぬ、微々たる月日に過ぎない。
だが、この微々たる月日の積み重ねが歴史を大きく動かした。
その証拠に時の流れは年々加速し、文化発展や技術革新も早くなった。
しかし、その反動で多くの文化や技術が廃れるのも又、早いのだ。
我が一族の役目は、良き古くからの文化や技術を後世に遺すこと。
そして、それは新しい考えや新しい視点を取り入れることでも在る。
家の慣習を変え、当主となった貴殿のようにな。」
先代は、優しく笑う。
「はい。」
「言いたいことをまとめると、
貴殿の代で課題を解決出来なくても、別に気負わなくて良いのだ。
後世の人間がなんとかしてくれるさ。
大切なのは、自分なりに最善を尽くすこと。
そして、しっかり生き、次代に繋げなさい。」
「その役目と思い、しかと受け継がせて頂きます。」
「受け継いでくれて、有難う。」
先代は、朗らかに笑っていた。
先代につられて笑い、心が少し軽くなった。
3/1/2024, 6:01:11 PM