「フラワー」
予報は外れ、土砂降りの雨だった。
雷や強風はないものの、忌々しいほど分厚い雲が空を覆い、地面を叩きつけるような雨。対して彼女の心は天気に負けないほどの雷ゴロゴロの嵐模様だった。
「梅雨だからねえ。仕方ないねえ」
のんびりとした新郎がニコニコと前を向きながら言った。扉の向こうから荘厳なウエディングソングが聞こえてくる。
「そんな怖い顔しないで。新婦さん。せっかく綺麗なのに。今から入場するんだよ?」
調子よい言葉に雷はおさまったが雨は降り続く。
「だってせっかくの結婚式なのに。海外みたいなガーデンウェディングするのが夢だったのに」
しょんぼりとブーケを見つめる新婦。
薄暗い廊下でオレンジの花がやけに鮮やかに色彩を放っている。
顔を出すことができなかった太陽のようだ。
「仕方ないよ。ほら行くよ」
重そうな扉がゆっくりと開き、割れんばかりの拍手に迎えられた。
「この後の披露宴ですが、雨天のため、別会場をご用意いたしました。係の者がご案内いたしますのでしばしお待ちください」
式の喜ばしい興奮が冷めやらぬ客に式場スタッフが繰り返し案内している。
控室に戻った新婦は披露宴用のドレスに着替えていた。
彼女の誕生花を代表するような黄色いドレス。レースが何層にも重なっていて体を動かすたびにふわふわと揺れる。
空は晴れ間が出始めているがやはり小雨がしとしとと降り続けている。
彼女は小さくため息をついた。小さい頃に見た洋画でヒロインがフラワーシャワーで祝福されているシーンに強く憧れた。自分もいつか結婚式をするときは青空の下で…。
ま、仕方ないか。
友人も家族もすごく嬉しそうだったし十分良い式だっただろう。
「お、ご機嫌治ったかな?」
新郎が新婦の顔を見てのんびりと言った。
「うん。いつまでもぷりぷりしてられないでしょ」
さっきまでの雷模様が嘘だったかのようにさっぱりと晴れやかな顔をしている。
窓の外は今さら雨が止んでいる。
「良かった良かった」
新郎がにこやかに前を向く。
扉の向こうからは新郎新婦が出会ったきっかけのバンドの曲が流れている。
スタッフがアイコンタクトをして扉をゆっくり開けた。
すると、目に飛び込んできたのは吹雪のような花びら。
とんでもない量の花びらが舞って前が見えない。
「おめでとー!」
友人も家族もごちゃ混ぜで扉の両脇に列になって花びらを投げている。
新郎はちらりと隣を見やった。
そして満足そうに「やっぱり今日は雨だね」と呟いた。
4/7/2025, 12:29:40 PM