#逃れられない
マンションの隣室に若い男性が引っ越してきたようだ
時折荷物を運ぶ音がする
「手伝いましょうか?」
暇だった私は声をかけてみた
「あ、助かります!」
相手は“爽やか青年”という感じだった
おそらく女性ウケも悪くないだろう
荷物を運びながら様々なことを話すうちに
だんだんと打ち解けていった
仕事に対する愚痴も、嫌な顔一つせずに聞いてくれた
「ありがとうございました!よければどうぞ。」
差し出してきた紙袋には
お茶菓子と小さなひまわりが入っていた
なぜひまわりなのか?と疑問に思ったが
断るのも悪いのでありがたく頂いた
「ひまわりはリビングに置くといいですよ!
金運アップだそうです。」
と言われたので、リビングの目につくところに
置くことにした
実際、綺麗なひまわりだった
数日後、回覧板を届けるため隣の部屋を訪れた
いつも通り爽やかな笑顔で彼はいった
「おはようございます。ところで、今の時期はまだ
Tシャツ一枚で寝ないほうがいいですよ。」
え…?
なぜ彼は知っているのだろうか
私がリビングでTシャツ一枚で寝ていることを
「えっと…なんで知ってるんですか?」
おそるおそる聞いてみた
悪寒がしたと思った瞬間
彼は耳元でこう囁いた
「僕、あなたのことが好きになっちゃって。
だから、ずっと見てるんです。」
一気に鳥肌がたった
刹那、自室へ駆け出していた
見られていた…?
私が…?
どこから…
ふとひまわりが目に入った
ひまわりの中心部、すなわち種の部分を観察していると
『やっほー。大正解』
彼の声が聞こえた
それはひまわりから聞こえてきた
咄嗟に投げ出した
思い切り床に叩きつける
さっきまでひまわりだと思っていたそれは
スピーカー搭載のカメラだったのだ
なぜ今まで気づけなかったのだろうか
その後、私は家を出た
もうあのマンションにはいられない
今思い出しただけでも吐き気がする
もしやと思い、電車の中を見回したが
幸い、彼はいなかった
ふと気になったことがあった
スマホの画面をつつく
少し手が震えた
“ひまわりの花言葉…”
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「あーあ。また駄目だった」
俺は先日まで隣に住んでいた女の顔を思い返していた
綺麗な人だったのに
まぁいいか
どうせまた会える
だってひまわりの花言葉は…
【あなただけを見つめる】
5/23/2024, 12:08:42 PM