茉莉花

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嗚呼、と声が出る。

嗚呼、貴方は酷い人だ。

自分に居場所を与えて、帰る家をつくってくれて。
ケチな自分に文句を言いつつも、結局いつも、なんだかんだ許してくれて。
いつの間にか貴方が居るのが当たり前になってたんだ、ほんとうに、いつの間にか。
この生活がずっと続くわけじゃないって、そんなの判っていた筈なのに。
学園を卒業したら、ほんとうに赤の他人になる。貴方と僕をつなぐものは何もなくなる。そして、それはそう遠くはない未来。ほんの、あと数ヶ月先には現実になってしまう。

『僕と先生は“赤の他人”ですから!』

今まで自分で散々そう言ってきたのに、今になって“赤の他人”という言葉に恐ろしくなる。
“他人”なのだ。たとえ、これまでどんなに同じ時間を過ごしていようとも。自分がどれほど貴方のことを想っていようとも。

きっと貴方は、僕がどんなことをしようと「大きくなったなぁ」なんて言って、父親か…先生の顔をして笑うんでしょうね。
先生、僕もう十五になったんですよ。
もう少しで卒業しちゃうんですよ。
もう少しで貴方の生徒じゃなくなるんですよ。

たまたま生い立ちが似てただけで。僕と貴方はただの他人で。一生僕が夢見るような関係には、貴方のとくべつには成れないって、解ってる。
解ってるけれど。
貴方がゆるしてくれる限り、ずっとそばに居たい。
そんなふうに、思ってしまう。

嗚呼、ほんとうに、貴方は酷い人だ。
貴方が僕の名を呼ぶことが。子供をあやすように頭を撫でることが。微笑みかけることが。
どれほど僕を傷つけるのか分かってますか?分かってませんよね。分かられたくもないのでそのままでいいですけど。
貴方は月みたいだ。美しく輝いているのに、決して手の届かない月。
でも、月を手に入れることは出来ずとも、見上げるくらいは、赦されるでしょう?

だから、今はまだ、もう少しだけ、貴方のそばに居させてくださいね、先生。

3/9/2025, 2:01:23 PM