与太ガラス

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 地面を足で蹴って空を駆け、鉄の棒を支点に頭上に脚を通過させる。初めて重力に抵抗したのは、いま思えば逆上がりだったかもしれない。僕は逆上がりが苦手だった。

 いや、苦手どころか授業中にできたことは一度もなかった。そのくせ中学生になって戯れで鉄棒を握ってみたら簡単にできた覚えがある。

 結局のところ、あれは何を測られていたのだろう。もっと大きくなればできることを、小学生という発育に差がある時期にさせられて、ただ不用意に劣等感を植え付けられるだけの時間だった。

 挙げ句「がんばれ〜」などと囃される。他人からの応援を素直に受け取れなくなったのはあの頃からだ。

 川を見るのが好きだった。川の水は、上流から下流へと流れていく。階段の上でボールを押せば、下の階に転げ落ちていく。だれも避けることのできない落ちていく力。重力。

 僕は落ちていくのを楽しみたかった。抗えない力に身を任せながら、それでも抵抗してみたかった。

 僕は今から10メートルを1.42秒かけて落下する。でも、ただでは落ちない。僕は飛び込み板に足をかけ、勢いよく蹴り出した。

11/24/2024, 1:12:24 AM