「いいよ、話してみて。面白かったことでも『つまらないことでも』」
「……つまらなかったこと、でもいいんですか」
「もちろん。お前の話ならなんだっていいから」
嬉しいんだよ、と柔らかに細められる眦が告げている。
頭を撫でる手もいつもよりゆるやかで急かすこともなく。
あたたかな手のひらがいいよと許してくれるから。
「……やきもち、妬きました」
そろりとすべり出した声は少しだけ震えてしまったけれど。
「あなたの手が触れるのは僕の頭だけでいいと思いました」
絶対に言うまいと思っていた次の想いは詰まらずに、素直に溢れて。
「あの、……っ、」
拾われることなく落ちていった言葉を端を眺めながら、撫でるのが止まってしまった手を見上げて、息を呑む。
左手は僕の頭そのままに、右手で口元を覆って顔を逸らしている横顔。左耳がこんなうす暗がりでも分かるほど、赤くて、こちらまで飛び火して頬が熱くなるのを感じた。
「なにかいったらどうですか」
いつも以上に突慳貪な言葉にようやく隣の彼からくつくつと笑う声が零れ出してきて。
「いや、あの、思ったより嬉しかったからさ」
ぐしゃぐしゃとやや力任せな左手がまだ僕の頭を撫で散らかしていく。
「ごめんな」
振り払おうとした手は、まるで猫の愛情表現のようにゆるやかに閉じられる双眸に阻まれて、ああ、やっぱり好きなのだと自覚するしかなかった。
8/4/2024, 11:17:45 AM