海月 時

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「いかないで。」
そう叫んでも、届かない。

『会いに来たよ。』
ある日、死んだはずの親友が羽を生やして還ってきた。
「どうやって…?」
『神様に頼み込んだんだよ。』
彼は戯けたように、両手を絡ませて祈りのポーズをしてみせた。その姿は牧師のようだった。
『君が言ったんだろ?逝かないでって。』
確かに言った。が、本当に還ってくるとは。嬉しさ半分、驚き半分だ。

俺の親友は、昔から身体が弱かった。よく入退院を繰り返していた。終わりは近づいていた。彼が余命宣告されたのだ。しかし、彼は泣き言一つ言わなかった。いつだって昔と変わらない、お人好しの笑顔で笑っていた。だから、俺は終わりが怖かった。もうあの笑顔に会えないと思うと、涙が出た。だから、最期に言ったのだ。
「逝かないで。」

『君、最期まで泣いてたから。お別れ言えなかったでしょ。だから、会いに来たんだよ。』
嬉しくて、涙が止まらない。そんな俺は見て彼は、少し困ったように笑った。
『まーた泣いてる。これじゃあ、お別れできないよ。』
狡い俺は、このまま泣き続けたいと思ってしまった。そうしたら、彼はまた会いに来てくれるだろうか。
「もう大丈夫。」
それでもやっぱり、親友に心配かけたくない俺が勝つ。
『今まで、ありがとう。次会う時は、君から来てね。』
彼は俺を抱きしめた。そして、段々と消えていく。俺はやっぱり泣いてしまった。
「いかないで。俺を、一人にしないでよ。」

泣きすぎた俺は、少し熱くなっていた。微熱があるのかもしれない。そんな俺とは対照に、最期に触れた彼は、とても冷たかった。出来ることなら、俺のこの熱を分けてしまいたかった。

11/26/2024, 3:24:46 PM