真っ白に染まった世界はほのかに輝いて見えた。
四日前に降り出した雪は止むことなく降り続いている。町も、森も、道も、何もかもを飲み込んで埋め尽くす白い雪は、世界をまるごと埋葬しようとしているかのように男には思えた。
「寒い?」
腕の中の体を一層強く引き寄せる。
「別に·····静かでいいよ」
そう答えて目を閉じた。
寒さはあまり感じていない。
それよりも耳が痛くなるほどの静寂が二人を包んでいる。道を歩く人の靴音も、生い茂る葉が擦れ合う音も、町のざわめきも、隣家の食事の団欒も、何も聞こえない。降り続く雪は命が蠢く音までをも飲み込んでしまっている。
このまま二人、眠るように死ねたらきっとこの上なく幸せなのだろう。
だからそう答えたのに、かえってきたのはようやく絞り出したような、苦しげな声だった。
「·····ごめん」
何を謝ることがあるのか。
何も間違ってなどいないのに。
ぽたりと頬に落ちた雫が、涙だと気付くのに少し時間がかかった。
「謝ることなんか無いよ」
手を伸ばし、濡れた頬を指で拭う。
「本当に、静かでいいと思ってるから」
戻れない場所まで来てしまった。
それでもこの選択を間違いだとは思えなかった。
今は目の前にいる彼だけが、すべて。
だから自分は、この上なく幸せなのだ。
「·····好きだよ」
ようやく言えた。
雪に閉ざされた世界で、互いの温度だけがただ一つのよすがとなっていた。
END
「雪の静寂」
12/17/2025, 3:23:09 PM