NISHIMOTO

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病気の主人公の気分が暗くなる描写があります。短いですが明るい話ではないので、苦手な方は避けるか、超元気!な時に読んでください。






小さくひらいた襖が外から光を招いてうすら明るい和室に踏み入らせている。
清潔に保たれた布団の中から、顔までは伸びてこない光線ごと細長く切り取られた庭を見ていた。
快晴の午前のなかばに、いくつかの気配が近づくたびに息をしぃっと吐き出して、つぎは赤子よりも柔らかく吸う。どうか、だれも通りませんように。
「調子はどう?」
「……最悪だよ」
「そうかな。昨日より元気そうに見える」
気配は外から「素人目だけどね」、と付け足す。襖が動くのと同時に空気が巻き込まれるように換わって、そこに跪坐した、湯気の立つ膳を持った美丈夫は八の字眉で笑っていた。
時間通りだ。それが近づいてくるのを待つしかなくて、もどかしくて、苦しい。
ゆっくり背に差し込まれた手を本当は払いのけたい。それらを知っているからこの男は最低限しか手を貸さず、私はこうして苦痛を長引かせながら体を起こす日々だ。
扱いが気に食わないのだと苛立ちのままに振る舞うのも飽きた。
それでもふう、ふうとレンゲの粥を冷まして、差し出されて。どうしてもそれが口にできない。
徐々に顔を伏せてついにはうずくまった私の背を支える手が、やがて宥め、摩るようになる。食器を置く音が響く。むなしい音色に、ほど近くのいくつかの気配が揺れた。
私が嫌って遠ざけただれもかれもが、私を案じて近くの部屋に居るのを知っている。
みっともなく縋ってしまえば、みんなはまるで仏かと思うほど慈愛の顔で抱きしめてくれるだろう。暗く深い泥の、しかしごうごうと燃え盛る自我が足を引っ張らなければとっくの昔にそうしていた。
それは先は見えてもただただ遠い道のりの地獄だった。
胸の内をすべて透かし通すような光が襖から伸びていて、強い日差しだけがまるで蜘蛛の糸だった。

4/13/2023, 1:59:18 PM