fumizuki

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歴史の授業で使った資料の片付けを進んで買って出た
内申点を上げるというより、授業の合間の時間に話しかけられるのを防ぐためだった

家に仕込まれた人心掌握術でいかようにもできるが、
今日はあまり人と話す気分ではない
避けられるのなら避けたい

そんな心情など露知らず、先生は眉を八の字に下げすまないねと言い、準備室の鍵を手渡した
気にしないでくださいと人好きのする笑顔で鍵を受け取り、資料を持って廊下を歩く
それなりに重いが日頃鍛えてることもあり、さほど時間をかけずに準備室へ到着した

一度資料類を置いて、鍵を開け入室する
あまり人が入らないのだろう、室内は少し埃っぽい
教室に早く戻りたくもないが、ここに長居もしたくないのでファイルに書かれた番号や背表紙を確認しながら資料棚へと戻していく

作業が終わり戻るかと棚から踵を返したその時
視界の隅に捉えた文字を視野の中心に置く
ホワイトボードの隅、赤いペンで小さく書かれた相合傘
よく知った人間の名前と、たまに話す程度の女の子の名前

この学校にアイツと同姓の生徒も先生もいないので確定だろう
あの子がアイツのことを好きだったのは意外だった
俺と話したい奴なんて家柄目当てだと思っていたが、もしかしたら隣で無関係面で呆けてたアイツに少しでも近づきたかったからなのかもしれない
極度の面倒くさがり屋で寝てばっかりでも成績はトップクラス、顔もスタイルも良いからなぁアイツ

声をかける勇気もなく、こうして秘めた想いを書いたのだろうか
誰にもバレないように、でもあわよくば本人に知ってくれたらって期待もしちゃって
その様子を想像してみて、微笑ましさに口角が上がる


心の底から同意するよ


上から滑らせたクリーナーはあまりにも軽く、初めから何もなかったかのよう

こんなささやかで可愛らしい恋ですら
握り潰さなきゃ気が済まないほどに俺もアイツが好きだから

6/20/2023, 9:39:38 AM