届いて…
私は、喋れない、耳も聞こえにくい。
これは、私が小学生だった頃の話です。
父の転勤で、誰も知らない都会へ引っ越しました。高層ビルの隙間に、空がほんの少しだけ見える場所。私は教室で、まるで家具のようにそこにいるだけの存在でした。
話せない私は、「変な子」と呼ばれ、遠巻きにされることが多かった。何かを伝えようとしても、言葉にならない私の声は、空気に吸い込まれて、誰にも届かなかった。
昼休み、机に落書きされた私の名前を見つけた日、ひとりで図書室に逃げ込んだ。そこには誰もいなくて、静かな時間だけが流れていた。
その図書室で、一冊の本と出会った。
“わたしは しずかな こえを もっている
きみには きこえるだろうか”
その詩を読んだとき、不思議と涙が出た。
私は、初めて「届いた」気がした。
言葉じゃなくても、人の心に触れる瞬間があるんだ。
静かな声でも、誰かに届く日が来るんだ。
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届いて…(続き)
その本を読んで以来、私は毎日のように図書室に通うようになった。ページをめくる音と、遠くで鳴る時計の針の音だけが、私の世界のBGMになった。
ある日、図書室で一人の男の子に出会った。
彼は、私に話しかけることなく、ただ隣の席に座っていた。私の手元の本の題名をちらりと見て、自分のノートに同じ詩を書き写していた。そのとき、私の胸が少しだけ、あたたかくなった。
彼は、声ではなく、絵を描いて気持ちを伝えていた。
私の机に、そっと置かれた小さな紙。
そこには、風に揺れる草原と、空を仰ぐ猫の絵が描かれていた。ふわりと軽くて、でも確かに何かを伝えていた。
私は、自分の気持ちを少しだけ勇気に変えて、彼に返事をすることにした。
鉛筆を握って、震える手で「ありがとう」と書いた紙を渡す。
彼はそれを見て、にこっと笑った。
その笑顔だけで、「届いた」と、私は確信した。
喋れなくても、耳が遠くても、心が届く瞬間は確かにある。
それは、世界のどこかで響いている、静かな祈りのようなもの。
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#´ω`)ノオハヨォ皆さん熱中症等にお気をつけ下さい
水分補給日陰でお休み下さい。
7/9/2025, 6:37:26 PM