ブランコに乗った。久しぶりに。
それだけのことなのに、なんというか、足が全然言うことを聞かなかった。膝が前に出る。つっかえる。思いきり漕ごうとしたら爪先が地面に当たりそうで、仕方なく膝を折り畳んで、海老みたいな姿勢で風を受けた。いい歳した人間が公園のブランコで海老になっている。われながらたいした絵面だ。漕げているとも言いがたい。揺れているとも言いがたい。ただ、鎖の錆が手のひらに移った。
大きくなろうと決めた記憶はない。毎日なんとなく飯を食って、気づいたら足が長くなっていた。それだけのことで、誰も責められないし、とくに嘆く気もない。ただ、ブランコが窮屈になったという事実を身体で確かめたとき、胸の真ん中あたりがすうっと開いた。穴、と呼ぶには小さすぎる。隙間、と呼ぶには大げさ。名前のないものが一瞬そこにあって、気づいたらもう閉じていた。
跡も残らない。傷でもない。でも確かにあった。
そういう瞬間って、語りようがなくて困る。悲しいとも違う。懐かしいとも少し違う。強いて言うなら、「あっそうか」と思った、みたいな感じ。大事な何かをどこかで失ったわけじゃなく、最初から持っていなかったものにたった今気づいた、みたいな。うまく言えない。うまく言えないまま、錆びた鎖を握り直した。
この身体に見合った人間に、ちゃんとなれているだろうか。
考えかけて、やめた。答えを出そうとするのは、なんとなく違う気がした。見上げた空が、子どもの頃より少し遠かった。それだけで、なんか、十分な気がした。
5/12/2026, 11:14:48 PM