はちみつミルク

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“貝殻に耳を当てて澄ませると、波の音がする”
最初にそう言い出したのは誰だろう。

海に初めて触れたのは小学校高学年の自然教室。
そのときは残念ながら貝殻どころか欠片すら見つけることは出来なかった。
“海には必ず貝殻がある”と思い込み、貝殻に耳を澄ませることに夢を抱いていた私はショックを受け、しょんぼりと肩を落とした。
せっかく遠泳で400m泳げたのに。
だが、小学生の思春期真っ只中であった私にとってはそんなことなどどうでも良かった。

それから時は流れ、機会は再び訪れた。
中学校3年生の修学旅行で沖縄へ行くことになったのだ。
ずっとずっと憧れだった南国の島。
今度こそ!と私は1人息巻いた。
“沖縄の海になら貝殻の1つや2つあるはずだ”
昔から何かと夢見がちな私は、またもやそんなイメージを抱いては胸に期待を膨らませていた。

いざ現地に到着し、初日は観光名所を巡る。
季節は春なのに沖縄は真夏の気候でジリジリと日差しが照りつけ、しっかり日焼け止めを塗っていても肌が焼けるのではないかと思う程だった。

そして、いよいよ2日目。
天候は曇り。本場の海は思っていたより透明ではなかったのが少々残念であったが、問題は貝殻だ。
教師に自由時間を与えられた生徒たちは散らばり、私もデジタルカメラを首にぶら下げて友人と砂浜へ走った。
波打ち際に近づき、しゃがんで貝殻を探し始める。

……うーん、なかなか見つからない。

「(友人の名前)ちゃん、そっちどうー?」
「んー、なーい!」
「そっかぁ……」
「もう探すのやめて遊ぼ~!」
「ごめん、もうちょい探してみる」

変なところで諦めが悪い私。
友人は肩を竦めてクラスメイトの仲良い男子たちのところへ行ってしまった。

(これで見つからなかったらもういいや……諦めよ……)

そのあとも1人で探索してみるものの見つからず。
あーあ……此処にもなかったか……とのろのろと立ち上がり、男子たちと遊んでいる友人と合流した。

修学旅行に同行していたカメラマンにカメラを向けられ、イェーイ!とダブルピースではしゃぐ私と友人。
ふと、足元に何か感触がして其処を見ると小さな白い貝殻が落ちていたのだ。

「あ、あったー!!」

目をこれでもかというくらい大きく見開いて驚き、声を張り上げる私。
友人もまさかこんなところで見つかるとは思わなかったのだろう。ぱちくりと目を瞬かせながら呆然と隣で立ち尽くしている。

早速貝殻を拾い上げると、サイズは手のひらより一回り小さい。
それでも私は心臓をドキドキと高鳴らせ、そっ……と耳に近づけて神経を集中させる。

「……どう?何か聞こえる?」
「…………何も聞こえん」
「だよね~」
「こんなちっさいしね~」

けらけらと友人と顔を見合わせて笑い、貝殻を再び砂の中へ戻す。

何も聞こえなくて当然だ。
もしあれより大きな貝殻が見つかって本当に波の音が聞こえるなら、それはそれでロマンがある。

またいずれ海へ行くことがあれば、夢見の少女時代の自分を連れて一緒に探してみようか。

“ねぇ、貝殻探しの旅に出掛けよう”

9/5/2024, 11:54:12 AM