「よ、繁盛してる?」
「…そう見えるか?」
にぎやかな奴が来た。まあいい。今日はひとりで正直暇だったんだ。
「見える見える。今度おごってくれよ。」
「そこのカフェのコーヒーくらいなら。」
「え、この辺にカフェなんて出来たんだ。うまいの?」
「うまいぞ。ミルクたっぷりで甘い。」
最近できた店だ。若い女性がひとりで切り盛りしている。コーヒーもスコーンも甘くてうまかった。
「お前が言うならうまいんだろうな。なあ俺の彼女の分も頼むよ。」
「じゃあ何か買って行け。」
「わかったよ。うーん…そうだなあ。」
律儀な奴。昔から変わらない。いい奴なんだ。
こいつがいたから俺はこの街を好きになった。
いい奴が住んでいるからきっといい街なんだろうとなんの根拠もないがそう思った。
「よし。このピンクの花とこれと…あとこれも…。」
「結構新しい店が増えているんだな。」
日が落ち始めた外を眺めながらひとりごとのように花束を作っている俺に話しかけてきた。
「ああ。いつのまにか無くなっていつの間にか出来ている。この街はどんどん変わっていく。」
「そうだな、俺が子どもの時とは随分変わったかもな。」
俺と違ってこいつはこの街を出たことが無いらしい。見慣れた街が変わってしまうのはやはりさみしいようだ。
「この街が好きか。」
「うん。好きだよ。この街もこの街に住む人もみんな好きだ。…彼女が、お前が、この街に来てくれて良かった。」
この顔は変わらない。昔からこいつは何も変わらない。それがとてつもなく安心する。
「…俺もそうだ。ここに来て良かった。」
「彼女も同じこと言ってた。良い街なんだな。ここは。俺が居るからかな?なんてな。」
「なんだそりゃ。ほら、用意出来たぞ。」
「かわいい。さすがだ。ありがとう。はい。おつりはいらないから。」
「…丁度だ。釣りなんかない。」
「はは、その通り。」
じゃあまたな。
親愛なる俺の友人。
大好きなこの街でまた会おう。
口では言わないけれど
いつもいつも心の中で
そう願っている。
街
6/12/2024, 1:17:21 PM