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いつもありがとうございます。
いたしてはいませんが事後です。
気がついたら露出が多くなりました。すみません……。
「ひとりきり」のお題なのに事後とかふざけてますね。このふたりは一度くらい爆発すればいいと思います。
苦手な方は「次の作品」をポチッとして自衛をお願いいたします。
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ベッドの上で俺は自分のシャツを彼女に着せた。
クッタリと意識を飛ばした彼女の額に浮かび上がる汗を拭い、俺は水を取りにリビングに移動する。
冷蔵庫からペットボトルを取り出したとき、リビングのカーテンが開いたままだった。
カーテンを閉めるついでになんの気なしにベランダの窓から外を覗き込む。
窓からはリビングの常夜灯の明かりが反射して自分の姿しか見えなかった。
火照る体を冷やそうと、サンダルを履いてベランダに出る。
真夜中の風は冷たくて心地がよかった。
俺が物語の主人公なら、ここで煙草でも燻らせたりするのだろうか。
近隣トラブルになりかねないから、ベランダでの喫煙は控えるように注意喚起されていた。
このご時世、煙草は嫌厭されがちだから編集者やクライアントからチェックが入るかもしれない。
控えめに主張する星々を見上げた。
あいにく、俺は彼女とともに生涯寄り添ってみせると誓ったから、酒はあおれど煙草を嗜む機会はなかった。
銘柄によって変わる香りや、性別や持ち方による人の印象、喫煙ルームに漂う独特の雰囲気は嫌いではない。
ただ、いざ現実に落とし込むとなった場合、むせ返る煙やいつまでも服に残る臭いは好きにはなれなかった。
ロマンチストに失恋に浸る余裕もなく、星座の探し方だってヘタなままである。
ギリギリ、北斗七星とオリオン座を見つけることができるくらいだ。
カシオペヤ座はオッパイ座と覚えたからテストの暗記には苦労しなかったが、いざ探すとなると難しい。
喧騒が消え、粛々たる夜空に散りばめられた星をひとりきりで見上げるのは嫌いではなかった。
ぼんやりと空を眺めていると、遠慮がちにベランダの冊子が乾いた音を立てる。
振り返ると、いつの間にか目を覚ました彼女がいた。
目を合わせる間もなく、彼女が先ほど俺が着せたシャツを脱ぎ始める。
深夜にもかかわらず、思わず大声で悲鳴をあげるところだった。
「なっ!? …………んで脱いじゃうんですかっ」
彼シャツとかかわいいからと、欲を出したバチでも当たったのだろうか。
素直に彼女の服を着せればよかったと後悔したが、そもそも着ていた服を脱いで渡されるなんて想定できるはずがなかった。
「だって、服着てない」
俺の余熱を残したまま、光がない夜の世界でもわかる白い肌を彼女は惜しげもなく晒す。
「ねえ。服着て……」
「こっちのセリフなんですよ……」
今度はあなたの服がなくなっちゃったじゃないですか……。
嫁入り前の女性がベランダでパンイチ姿を晒すとかいかがなものだろうか。
いつもはスポーツ用の股上の深いシンプルな下着なのに、今日に限ってどエロいヤツ……。
彼女も乗っていたから盛り上がりそうだったという理由だけで、その派手な下着を着せたのは俺だ。
しかし、購入したのは彼女自身である。
顔に似合わず、彼女は意外と派手好きだ。
清楚系から華美なものまで彼女は完ぺきに着こなしてしまうのだから、素晴らしいことこのうえない。
「大丈夫。ブランケットある」
「なんにも大丈夫じゃねえんですよ」
ブランケットを持ってくるくらいなら服を着てほしい。
「でも、ちょっと肌寒いね?」
俺の静止を無視して、彼女はサンダルを履いて隣に寄り添う。
雑に羽織ったブランケットの中で縮こまる彼女につい息をこぼした。
「……居座ろうとしないでください」
「だって……」
ベランダで男女ふたりの上裸を目撃されたら通報されてしまう。
しかし、彼女は全く引き下がる様子がなかった。
俺はしかたなく彼女から渡されたTシャツを着る。
微かなシトラスの香りが鼻腔をくすぐって熱が昂りそうになった。
「……ちょっとウトウトしてただけなのに、いなかったんだもん」
額を押しつけて拗ねる彼女に、俺の瞼が大きく持ち上げられる。
「すみません。寂しくさせてしまいましたね……?」
ひとりきりの時間を必要とするときは俺にだってある。
しかし、ひとりきりで生きていこうと決めた彼女が、ふたりでいたいと俺を求めてきたのだ。
彼女を求め続けた俺が、その思いに応えないわけにはいかない。
「戻りますよ」
「ん……」
ふたりきりの夜風は、少しの温もりを運ぶ。
熱が引いた寝室で、俺たちは再びお互いの吐息を甘く煮つめていくのだった。
『ひとりきり』
9/12/2025, 2:15:39 AM