『ずっと隣で』
「おや、また少し透けましたね」
バス停のベンチに座る顔馴染みの老紳士が、僕の右側を見て穏やかに笑った。
僕の右隣には、十年前からずっと何かがいる。
それは形のない影のような、あるいは陽炎のような存在だ。
僕が歩けばついてくるし、寝る時も枕元にいる。
たまに肩に幽かな重みを感じることもあるが、言葉を交わしたことは一度もない。
不思議なことに、この影は僕の人生の「予兆」を教えてくれる。
誰かと出会う直前には温かくなり、不吉なことが起きる前には、氷のように冷たくなるのだ。
「次は、何色になるんでしょうな」
老紳士の言葉に視線を戻すと、影はいつの間にか、淡い桃色の光を放っていた。
その直後、風に舞った帽子が僕の足元に転がってくる。拾い上げようと顔を上げると、そこには見知らぬ女性が立っていた。
影が、かつてないほど心地よく脈打つ。
仄かに優しい温かさを感じながら、僕は影を連れたまま、彼女に向かって一歩踏み出した。
3/14/2026, 3:42:00 AM