ゆかぽんたす

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その人はいつも雨を楽しみにしていた。僕からすれば、濡れるわ湿気で髪は酷いわ頭痛がするわで嫌なことなんて一つもないのに。
「雨の音が好き。匂いも雨空も」
という、全く共感できないことを言ったのだ。何を持ってそんなふうに思えるのか。彼女の思考回路は分からない。もともと頭のいい人だとは思っていたけど、失礼ながらその部分には尊敬の気持ちが生まれなくて。ふぅん、という気持ちで聞き流していた。
「あとあれ」
窓の外を指差す彼女につられ僕も同じ方向を見る。校庭のそばには紫陽花が咲いていた。
「紫陽花?」
「うん、雨の日だと一層綺麗に見えない?」
「まあ、そうかもだけど」
梅雨時の代表的な花だから雨と相性がいいんだろうな。紫陽花と一言で言っても最近は品種改良が進んでいるせいか、様々な色形のものがある。僕の知ってる、ちょっと青みがかった紫の紫陽花ももちろん校庭に咲いていた。でもそれ以外に、ピンクだったり白だったり、ちょっと変わったグラデーションのものもある。不思議なもので、彼女と並んで見ていると雨なんかどうでもよくなっていた、紫陽花を引き立たせるために降っているんだと思うと、そこまで厄介なものじゃないかもしれない。
「紫陽花の花言葉って知ってる?」
「全く」
「ふふふ」
教えてくれないのかよ。彼女は含み笑いを僕に見せ、また窓の向こうへと視線を飛ばした。
そろそろ関東は梅雨入りだ。雨続きの毎日が続くのだろう。でもこんなふうに彼女がご機嫌になるなら、期間限定で、普段よりも雨の煩わしさを感じないかもしれないな。

6/14/2024, 8:51:21 AM