シシー

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 第一印象は、自分と似ているな、だった。

 自己保身のための逃げ道を最初につくって、それから物事に取りかかる。失敗しても最初につくった逃げ道を盾に言い訳を重ねる。誰もが納得するような言葉で、態度で、表情で、誰よりも自分を卑下する。あとは相手が呆れて去っていくまでずっと繰り返すだけだ。
そんな無責任で情けない愚かな自分が大嫌いで愛おしい。

 自分の愚かさに酔いしれる姿がそのまま目の前に現れたのだ。悪いことだと自覚しているのに、同時にそれが最適解だと信じて疑わない相反した思考回路がそっくりなのだ。嬉しかった、自分だけではなかったと彼が証明してくれた。あからさまに表に出すことはしなかったけど皆気づいているのだろう。一歩引いた場所で観察しながら道を踏み外さぬよう誘導して体裁だけは整えてくれる。
その環境にずっと甘えていたい。

 でも、深い蒼色の視線がそれを許さない。

 どこまでも沈んでいく感覚が心地よくて目を閉じようとしていた。煮詰めた砂糖のように甘い夢をずっとみていたくて、見たくない現実を追い出すために、目を閉じる。
 ぐっと強い力で引っ張られて、一緒に沈もうとしていた彼がいつのまにかいなくなっていることに気づいて、絶望した。もっと深く沈もうとした自分を、蒼色の視線だけは見捨てない。

 自分の足で立ち上がれ、
 動けないなら手を引いてやる、
 絶望する暇がないくらいがむしゃらに進め、
 絶対に見捨ててやらないから覚悟しろ

 なんて眩しいのだろう。直視できそうにない。
でもね、なんでだろうね。隣にいて一緒に沈んでくれるよりもずっと嬉しいの。すごくつらくて苦しいのに嬉しくてたまらない。
 
 ―― ねえ、どうして諦めてくれないの


               【題:瞳をとじて】

1/24/2025, 8:46:31 AM