優しくしないで
「××〜?」
俺を呼ぶ声がする。
返事をしたいけど、したくない。俺がここにいるって知られたくない。公園の遊具の中に隠れているダサい姿を見られたくない。
分かっている。こんなところにいないで、さっさと家に帰った方がいいって。雨も降り出してきた。小雨のうちに帰った方が被害が少ない。
そう思っているうちにだんだんと雨粒は大きくなってきて、結局俺はここから動けなくなった。
いつもそうだ。
分かっているのに動けない。足が固まる。今回だってあんな最低なヤツ、とっとと別れた方がいいと思っていた。周りにもそう言われていたのに、ずるずると関係を続けてしまった。
その結果、他に本命が出来たからと捨てられた。
「あー、もうほら、帰ろうよ」
だというのに、コイツは何で俺を迎えにくるんだ。お前は関係ないのに。いつもそうだ。俺の愚痴を延々と聞いて、最後に「それでも好きなんでしょ?」と笑うのだ。
そうだよ、好きだよ。好きだから別れたくなかったんだよ。
「雨、強くなるよ」
周りがどれだけアイツのことを否定してきても、コイツだけは何も言わなかった。アイツのことを肯定することもなかったけど。
「帰る……」
「ん。立てる?」
差し出された手を掴む。
優しくすんなよ。好きになるだろ。
なんつって。
幼馴染のコイツだけは絶対ない。
「××?」
「なんでもねぇよ。あーあ、酒飲みてぇ」
「いいじゃん、飲も飲も!」
するりと組まれた腕は振り解かない。いつものことだからな。
5/3/2023, 3:34:42 AM