みるく

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いつの間に眠っていたんだろう?
 本を読んでいた時は、暖かな日が差し込んで、このお部屋いっぱいに温もりが溢れていたのに、カーテンも閉めずにいたこの部屋は、ちょっぴり肌寒く、ソファーの背に掛けてあったカーディガンを思わず羽織った。
 電気も点けずにいたから、お部屋は真っ暗な筈なのに、ベランダに続く大きな掃き出しの窓に掛かったレースのカーテンは白く煌々とした明るさで、暗い天井まで、仄かにその白さが判る程に明るかった。
 手に持ったままの読みかけの本を閉じると、それをテーブルの上に置き、その明るさに惹かれる様に、カーテンの向こうを覗き込む。

 何も見えない……。

 座っていたソファーからお尻を上げ、白く輝くレースカーテンの方に歩み寄る。ほんの少しカーテンを開き、ベランダの方を眺める。ベランダの手摺りが鈍い光を放っているのが見える。
 サーッとレースカーテンを大きく開け、外に並べて置いてあるサンダルを履き、ベランダに出る。
 水平に視線をぐるりとするけれど、それらしきものは見えず……。
 ふと、空高くを見上げると、そこにはお月様。

 こんなにお月様が明るいなんて、知らなかった。
「良い歳をしたおばさんが笑っちゃうよね」
 と独り言。

 目を凝らして見ると、月の模様が見える。何十年か前に、あそこに人が立ったのよね、と思う。ただ、平凡な日常を過ごしているだけなのに、月を見ていると、別の世界に誘《いざな》ってくれる様な感覚になる。
 今、この時、何人の人が同じ月を眺めているのかな? みんな何を想っているのかな? そんな事、ふと考えてしまう。
 寝起きの頬に、夜風が心地好い。


# 月夜

3/7/2023, 2:29:06 PM