NISHIMOTO

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 ぐわりと口を開くと、歯列や赤い舌が一瞬覗く。そのまま勢いよく噛みつけば、バーガーから垂れたソースが彼の手を汚した。眉間に皺が寄っている。不快なのはよくわかる。
「……なんだ。僕は間違っているのか」
「いいや、まったく。ジャンクってのはそういうことさ」
 紙ナプキンを差し出せば躊躇してから受け取り、口元と手を拭う。丁寧な仕草だった。
 バーガーは実に見事なサイズ。一口が大きいわけではないから彼の咀嚼は短いし、本来ならナイフとフォークを持つ手が指を重ねてバーガーを零さないよう頑張っていた。小動物然とした振る舞いと呼んでいいのか。伝えたら怒るだろうから、思うだけ。初めて食べるハンバーガーはお気に召したようだ。
 ふたりそれぞれの、これまでずっとそうしてきたモノがぶつかって、こちらが譲ったり、あちらが譲ったりを繰り返してきた。譲る時は楽しい。譲られる時は嬉しい。ナイフ一本分、フォーク一本分、相手の隙間に入れてもらえた気分になる。
 家に招かれた時、そう告げたことを思い出した。丸ごと人ひとり分、入れてもらえたから。向こうは納得して、こちらは妙な顔をして、ふたりして恥ずかしがった思い出。
「僕から見た話だが」
「うん?」
 ようやく食べ切ったあと、彼らしく、汚れていない一番外側の紙包みを綺麗に折りながら視線だけを寄越した。
 折り紙はやがて妙な角度の鳥を経る。慣れてしまえば自己流で楽しむ人。頭の中ではすでに完成形が美しい指に造られるのを待ち望んでいるのだろう。
 晴れた空の下のパラソル、またその下の二人組にお似合いの夏鳥が現れた。鳥は彼の手を離れてこちらのスペースに届く。それは彼の故郷にいる鳥。
「君がそうやってあからさまに喜ぶものだから、譲歩してしまうんだ。そうしなくとも。僕らの文化が一分たりとも混じらずとも、安心できる関係性を目指すべきだと思うが」
「……」
「譲りっぱなしは性に合わない。その鳥の分だけでも、君の心に住まわせておけ」
「……うん」
 背中がやけに暑くて、熱くて、顔も真っ赤になってしまっていたら、どうしよう。どうしてくれよう。
 わずかに震える指が鳥を拾った。
 家の中に飾るものは無い。これまでずっとそうしてきた中に、今日、折り紙の鳥を浮かせる。きっと彼を招いて「上等な紙で折り直してやる」と言われる日が来るだろう。それがひどく待ち遠しかった。

7/13/2024, 12:12:45 PM