雨露にる

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なにもいらない、なんて寂しいことを、言わないでほしかった。
すべてを望んでほしかった。あれがほしい、これをやりたい、あそこに行きたい、すべてを思うままに、望んでほしかった。

「もういい……! なにもいらない、なにも、なにも! なにも!」

君にはその権利があるのだと知ってほしかった。
でもそれすらもつらいのだと、君は叫ぶ。なにも感じたくないのだと、ただひとつ、安寧だけ、それさえあれば、それだけが、と。でもそれだけすら君には与えられず、得ることができなかった。君にとっては最初から最後まで、この世のすべてが理不尽だった。私も、理不尽のひとつでしかなかった。
そんなことはないと、君に伝えたかった。そんなことはないのだと、君に証明したかった。そんなことはないんだと、君がいつか、笑ってくれれば、よかったのに。

「みんな、みんな、だいっきらい!」

世界が落ちる。
すべてが終わる。
君の憎いもののひとつにしかなり得なかったな、と、思いながら、一番星のようにぎらぎらと光る目を、いつまでも、見上げている。


(お題:何もいらない)
(あるいはたったひとりによって幕が下りる話)

4/21/2023, 9:50:02 AM