三上優記

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『お幸せに!』
 願いは儚く散った。
「ママ、どうしてパパを置いてくの?」
 普通、というものの尊さは失われないと気づけない。
「ママとパパはね、お別れすることにしたのよ。だから由香は今日からママと暮らすのよ」
 7年住んだ家を後にする。大学時代から付き合っていたにも関わらずこんな幕引きとは。
(どこで間違えたのかしらね)
 普通に生きれれば良いと思ってた。それが幸せなのだと。
 結婚して、家庭を築いて子どもの世話をして。
 しかしある日気づいてしまった。家庭にも社会にも、「私」はどこにもいないのだと。
 家にいれば、母親あるいは妻。社会には仕事をもたない私は居場所がない。
 いつの間にか、「私」はどこへ消えたのだろう。
 仕事の再開も夫に阻まれた。家事をしてくれないと困ると。私は家政婦ではないのに。
「ママ?」
 由香の声に我に返った。大丈夫よ、と手をしっかり繋ぎ直す。
 子どもを抱えて、どこまでやれるかわからないけれど。
 私は「私」を取り戻りたい。それが私の幸せだと信じているから。
「由香、私これから頑張るから、由香も私のこと応援してくれる?」
「うん、いいよ。ママ」
 別れもまた1歩だと信じて、私は由香の手を引いて歩き出した。

3/31/2023, 6:46:45 PM