「夢なんてどうせ叶わないよ」
少年がぽつりとつぶやいた。
「なぜそう思う」
少年の目の前に、帽子をかぶり、白いひげを蓄えた男が現れた。
「なぜって、夢をつかむようなヤツとはデキが違うからさ」
「君の夢はどんなものだ」
「どんなって」
少年は顔を上げ、瞳を天井のあたりにさまよわせた。
「それ、それだ。君は夢の在処を遥か天上に描いているのだろう」
「はぁ? そういうもんだろ。夢や目標は上に昇って行ってつかむものだろ?」
「そう、だからつかめない。だから叶わないんだ」
男は少年に考えさせるように言葉を切った。
「なにを言ってるんだ?」
「イメージの問題だ。夢が土の中に埋まっていると考えたらどうだろう? 地中深くに埋まっているものを掘って掘って見つけ出すんだ」
「はあ」
「見えない階段を上るとか、空を羽ばたくとか、自分にできないことをイメージするより、わかりやすいと思わないか? スコップを持てばいい」
「ああ、なんとなく。でも実際にはどうすれば?」
「学べばいい。足元を掘れば過去が見えてくる。見えないものをつかもうとするのではなく、見られる過去を学ぶんだ」
「でもそれじゃあ何も新しいことは生まれないんじゃ?」
「過去を知らなければ、あるものを知らなければ、何が新しいかはわからんだろう。君が寝ている時に見る夢は、どれだけ突飛であろうとも、君の中にあるものから作られている。宇宙と交信しているわけではない」
「自分の中にあるものを増やす……ってこと?」
「掘り返し、学び、蓄積すれば、夢は自分の中から発掘される。届かぬ空をつかむより、目の前に落ちているものを拾う方が容易い」
哲学的断片
3/18/2025, 4:15:31 AM