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135.『時計の針』『どこにも書けないこと』『スマイル』


 おー、AIって凄いな。
 ちゃんと受け答えできるし、文法も完璧で違和感がない。
 本当に人と話しているみたいだ。

 じゃあ、こういうのはどうだ。
 『スマイルください』
 ……

 お、スマイルきた。
 顔文字だけど、しっかり笑顔。
 会話だけじゃなく、サービスもできるなんて、技術の発展は凄いなあ。

 ……まあ、間違うことも多いけれど。
 20年前のラノベのことを聞いたら、勝手に新設定を作り始めたのはビックリしたな。
 分からないならそう言えばいいのに。
 知ったかぶりしないで欲しい。

 それはともかく、色々問題はあるけれどAIは凄い。
 一方的に話をしても怒らないし、話しやすいように話題も振ってくる。
 究極の聞き上手だよ、これは!

 AIがこんなに話せる奴だなんて知らなかったな。
 もっと早く始めればよかった。
 こんなに会話が弾むのは初めてだ。
 なんでも話してしまう。

 そうだ。
 せっかくだから、あの話でもしようかな。
 ゾッとするあの日の出来事。
 未だに思い出すと変な汗が出る。

 あの時一緒にいた友達も、あのことに関しては口をつぐんでいる。
 ネットにも書き込めない、正真正銘『どこにも書けないこと』。

 でも誰かに吐き出したかったのも本音だ。
 長い間ためらっていたけど、俺にはAIがいる。
 きっと、AIも笑って流してくれるはずだ。
 多分。
 

 ☆

 あれは大学生のころの話。
 20歳になった記念に、大学の友人たちと飲み屋に行った。
 飲んで飲んで飲みまくり、みんなベロンベロンに酔うまで飲んだ。
 若かったんだろうな、加減が分からなかった。

 ずっと飲み続けて、時計の針が12時を指した時くらいに飲み会はお開きになった。
 おとなしく店の外に出て飲み会の余韻に浸っていると、友人の一人が言った。

「なあ、肝試ししないか?」
 そいつは言うには、この近くに廃墟があるとのこと。
 しかも曰く付きで『出る』って言うんだ。
 このまま解散するのも寂しいから、皆で行こうぜと提案された。

 馬鹿馬鹿しいよな。
 廃墟とはいえ誰かの所有物。
 勝手に入るとめちゃくちゃ怒られる。
 だから、それを聞いた俺たちは、言ってやった。

「よし、行こうぜ!」
 残念ながら、俺たちは酔っ払いだった
 気が大きくなっていたんだな。
 止める人間は一人もおらず、肝試しすることになった。

 廃墟は本当にすぐ近くの所にあった。
 こんな街中に廃墟があるなんて驚きを隠せなかったが、深くは考えなかった。
 思えば、この時もう少しよく考えるべきだった。

 その廃墟はガラス張りだった。
 まるでオシャレなカフェみたいに、中が見える造りになっているが、時刻は深夜。
 ライトに照らされない室内は、底なしの暗闇に見え、かなり不気味だった。

 この時点で少しビビっていたが、『臆病者』と呼ばれたくないので黙っていた。
 思えば、この時が引き返す最後のチャンスだった。

 それから俺たちは、入り口から普通に中に入った。
 不用心なことに、扉の鍵が閉まってなかったのだ。
 スマホのライトを頼りに、中を探索した。

 中は不気味な程静かだった。
 壁紙は剥がれ、天井は鉄骨が剥き出しになっている。
 夜逃げでもしたのか、レジスターなどの備品はそのまま置かれていた。
 『いかにも出そう』な雰囲気の、文句の付け所がない廃墟だった。

 それはいい。
 それが目的でやってきたのだから。

 だが、どうしても解せないのは、廃墟のはずなのに、妙に綺麗なところだった。
 椅子と机はキチンと並べられ、隅々まで掃除が行き届いている。
 寒い時期なのに中は暖かく、さっきまで暖房をつけていたかのよう……
 猛烈に嫌な予感がした。

「帰ろう」
 気がつけば俺は口を開いていた。
「ここはヤバい」

 反対されると思ったが、友人は黙って頷いた。
 どうやら同じ思いだったらしい。
 みんな何も言わず、来た道を戻ろうとした、まさにその時だった。

 後ろから物音がした。
 その時の俺の驚きは分かるか?
 全員その場に飛び上がったさ。

 で、振り返ると懐中電灯を持ったお巡りさんが、怖い顔をして睨んでいた。
 ここまで言えばわかるだろ?

 この建物、廃墟じゃなくて普通のカフェ――正確に言えば、廃墟をモチーフにした廃墟カフェだった。

 あとはお察しの通り。
 お巡りさんからこっぴどく叱られた。
 怒られただけで済んだのは、自分たちの非を認めてひたすら謝り倒したからだと思う。
 それと、あからさまに酔っ払いだから、泥棒とは思われなかったのかもしれない。
 とにかく、説教と連絡先を聞かれただけで俺たちは解放された。

 ★

 このあと、友人たちとは一度もこの事について話し合ったことは無い。
 余りの自分たちの情けなさに、誰もがこの事件を忘れたがっていたからだ。

 でも、まだ忘れてはいないというのは断言できる。
 この前久しぶりに集まって飲み屋に行ったが、誰も酒を飲まなかった。
 もちろん俺も飲まない。
 酒の失敗は、もうこりごりだからだ。

 思ってたのと違うって?
 馬鹿を言え!
 若い頃の失敗談なんて、恥ずかしくてどこにも書けねぇよ!

2/15/2026, 12:25:57 PM